に組んだ祖父は、落着き過ぎた下半身とは反対に、顔を無闇にガクンガクンさせて、切抜け様もない窮迫を、慎作と父のせい[#「せい」に傍点]の様にして怒鳴り立てた。
「ほんまに如何する気や、お前等|呑気《のんき》そうに黙ってくさるが、今度こそわし[#「わし」に傍点]にも見当はつかんぞ、おい慎作、お前の……その何や、新らしいとか云う頭で考えついたこと云うてみい。ヘン、こんな世帯智恵は出まへんがな、直造かて、足しにもならん水換えばかり能やないぜ、何んとか法見付けたらどうやね」
 七十八にしてはまだ弾力のある声だった。父は眼を眇《すが》める様にしてチラと慎作を一瞥しただけで黙っていた。皆の無視的な態度が祖父の尖がった肩を余計に厳めしくした。
「組合やたら、何やたら、碌でもないことばっかり仕腐って、ええ若い者が何の様や、一ペンでもええから、絹に一枚の木綿物位、買うてやってみい、罰は当たらんぞォ」
 だが、慎作は祖父の毒舌には別に反感も覚えなかった。無理にいからした肩も尖先の様にとがり、憎まれ口も歯のない唇にもつれるのを見ると、寧ろ哀憐が先に立った。祖父と違って父は、組合運動のため蕩児の様に家を明ける慎
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