弁士が立って激烈な言葉を吐いた。百目蝋燭が聴衆のどよめきにゆらぎ[#「ゆらぎ」に傍点]、その都度、触け合った陰影が生物の如く躍った。
 藤本が演台に立った。川っ縁や林で鍛えた声が、二十四にしては朗々として太かった。金色の仏具に反映する柔かな光芒、感激に息を呑む聴衆、一堂の場景は何か尊厳な、旧《ふる》びたフィルムの様だった。藤本の論点は白東会に及んだ。
「……諸君、地主は遂に白東会を抱き込んだ。これが彼奴等の常套的な最後の手段なのだ。白東会とは何か……名を正義に藉りたる暴力団に過ぎないではないか! 彼等地主は、今や悪剣をとって立ったのだ。諸君は、桜田門外の雪が血に染められたのは! 井伊の握った暴剣の報いであることを忘れないだろう。我等、正義を主張する、国宝たるべき百姓に、剣を持って臨まんとする彼等……」
 この時であった。演壇の直前にすっくと立あがった一人があった。おや、と思う間もなく人蔭は演壇に飛びあがった。
「国賊ッ」叫喚が礫《つぶて》の様に聴衆を打った。
 と、白刃がサッと光芒を切って、高く翳された藤本の右腕に、にぶい強靱な音を立てた。慎作は駈け寄った。どっと殺到する群衆の上で、白
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