り」に傍点]が離れず、頭では間断なく理智の鐘が鳴った。何のこれしき、闘争児の総てが舐める苦痛ではないか、高く批判せよ、あらゆる煩悶を情熱の糧にせよ! けれど、この呟やきも野面を渡る一陣の風であった。一戦ぎの後に、古沼の様な憂欝が襲いかかった。これが、毎日の闘争にまで尾を引いた。今まで気にも止めなかった同志の、ふと不用意に洩す利己的な言葉の端が、棘の様に心にささり、ともすれば白眼をむきたがる仲間の百姓に、日頃にない軽蔑を覚えたりした。
慎作は恐れ乍らも想った。もう一つの苦痛が、より大きい試練がほしい、それに依って現在の如何にもならないこの怯懦が、このまま絶望の底へ沈潜してしまうか、或はまた、それを契機として再び暁雲の様に情熱が染め出されるか……いささかこの希求に不安とあるおこがましさを覚えつつも、抱かずにはいられなかった。
白東会を雇って応戦準備を整えた地主達は、戦艦の様に落着き、小作人達の結成を眼下に視下した。「農民組合を脱退して来い。すべての交渉はそれからの事だ」これが動かない最後の返答だった。
示威と結成の固めを兼ねて、大演説会がS寺の電気のない大広間で開催された。説教壇に
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