ゃも》の様に眼を薄黒く窪ませた父が祈る様に瞼を閉じて、ギイギイ水車を踏んで居るのを見た。
ふいと慎作を見付けた父は、危く足を踏みはずそうとしたが、やっと両肱で体を支え、それでも微笑もうとした。が、笑えなかった。どんな時にでも、看板の様に面から去ったことのない微笑が、今はもう拭きとった様に消え去ったのだ。慎作は、ただ泣き笑うより術はなかった。出来る事なら、愛撫を籠めた手で父の背を叩き、何んでもよい涙の出る様な慰めを何時までも言い続けたかったが!
振りかかってくる火の粉の様な苦痛は、街と野にあふれた悲惨は、すべて皆、反抗の火を※[#「赭のつくり/火」、第3水準1−87−52]《た》く燃料たるべきであった。だが、一家の悲惨はあまりに身近過ぎる様だった。それは余りに生々し過ぎる薪であった。理智が悩みを清算する前に感情は迷児の様に泣きわめいた。慎作は、この事実に全く打ひしがれた自己をはっきり知った。そうだ、慎作は、常夜燈の様に消えなかった胸の火を、忽然吹き消されたまま、村を背に、同志を背に、殊に真暗な一家を背にして、何処までも何処までも走って行きたかった。だが、足には思想のおもり[#「おも
前へ
次へ
全34ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
山本 勝治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング