んけど……」
 慎作への理解を眼色にふくめて、彼の述懐をいたわってくれた父の言葉を、次の間から祖父の疳癪声が更に強く打消した。
「そやそや、慎作なんかに、ちょっとも権利なんかあらへんぞ」
 後に、白けた沈黙が深かった。
 慎作は、坑道を見失った土龍《もぐら》の様な父が、最後に頼ろうとする飼鳥を、理性一点ばりで拒否する自分が非常に冷酷なものに思えてならなかった。赫黒い父の額に、藪蚊が一匹血に膨《ふく》れて止まっていたが、鳥渡、眉をしかめただけで叩こうともしなかった。掌のマメ[#「マメ」に傍点]をぼりぼり掻きつつ、頭の中で難解な謎でも解きほぐそうとするかの様に、永い間、上眼遣いに顔を動かさなかったが、ふと決心した様に父は、慎作を真直に見た。
「お前が、顔出し出来んことやし、そうや、やっぱり十姉妹は止めにしよう」
「ええ、止める?」
「ああ、爺さんは怒るやろが、止めるよ、何とか考えよう」
 父はにじむ様に微笑した。同時に次の間で「何やて、止めるて※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と祖父の叫びがしたかと思うと、ゴソゴソ赤児の様に匍い出して来た……。

 父の飜意に、慎作は自分のために飼鳥を思
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