たぜ」
 祖父は止《とど》めの様に言い切って心持身構えたが、何時までも慎作が黙っているので気抜けした様に声を落し「なんぼお前が嫌いかてこうなったら、藁にでも掴まるより仕様あらへん、さあ、直造、寝よ、寝よ……」と、危っかしいすり足で次の間に入った。
 思い切って慎作は、併し哀願的に言わずにはいられなかった。
「お父っつぁん、どうしても十姉妹飼うのかい」
「…………………………」
「鳥渡、考えただけでは別に悪い事とは思えんけれど、この間から何度も言う様に、俺の立場から言うと……」慎作が父の顔を見ない様にして言い続けようとすると、父は狼狽《あわ》てて「いや、その事やったら、よう分かってるのやが」とせき込んで遮切《さえぎ》ったが、何かの固まりの様に唾を呑むと弱々しく呟やいた。
「何せ。爺さんはガミガミ言うし、蚕があんな様やった上に、この旱りやろ……おまけに、この秋に返えさんならん借金の当は皆目つかんしなあ、わしかて、お前の理窟は成程と思うてんのやが……」
「俺も、お父っつぁんの心配は分り過ぎる位分かってるよ、充分家の手伝出来ん俺がかれこれ言う権利はないか知らんが……」
「いいや、そんな事あらへ
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