てみてもええ考えやが、十姉妹ででも儲かったら、少しは助かるのやけども……」余程、心動いたらしい母が横から口を出すと、父は何時になく顔を赤くしてたしなめた。
「糸! お前は黙っとれ!」
併し父は、直ちに祖父の逆襲を受けねばならなかった。
「何やて直造! 糸になんの怒るとこあるのや、そやったら何やな、お前にはこの苦しい家を明るみに出す好い考えがあるのやな、さあ、それを聞かして貰おうかい、この際、鳥より上手な金儲を知ってたら、教えてほしいもんや!」
父は瞬間、顔を逆撫ぜにされた様な表情をみせたが、すぐと持前の、如何にもお人好らしい微笑をたたえて「これゃ敵《か》なわん」という様な眼色で慎作を見た。
祖父の罵りと迫る貧困と、さし招ねく誘惑の中で、どう梶をきめて好いか迷い乍ら、辛ろうじて自分を尊重してくれる父に、慎作は心から感謝した。
けれど、それから一週間ほど経って、委員会が永引いたため夜十時頃帰宅した慎作は、敷居を跨たぐと同時にはッとして棒立になった。蚊遣りの煙りが薄い幕の様に立ちこめたほの暗い土間で、白襦袢一枚の父と祖父とが並んで坐り、父は板をカンナ[#「カンナ」に傍点]で削ってい
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