−7]」と言う風に動いた。すぼんだゴム風船の様にベロベロ皮膚のたるんだ頸が、驚くほど延びた。慎作は、この一徹な祖父を納得させるだけの言葉を知らない自分が腹立たしかった。いや、自分の思想を如何に噛み易く柔かなものになし得ても祖父の歯牙は、既に区長授与の刹那に於て抜け落ちてしまったのを如何せん……であった。

 その夜、父は、祖父と慎作との間で眼の遣り場に困っていた。
「お父っつぁんの様に言うたかて考えもんやぜ、慎作が反対しよるだけやなく、なんぼ流行かて、きっと儲かるもんとはきまってやせんしなあ、……それに、もう遅いわい!」
 だが、その事より何より、父は慎作の意嚮に気をかねて居ることは確かだった。父にしてみても、不成功だった養蚕をこの鳥で、或はとりかえせるかも知れない事は、何に増しての誘惑であるに違いなかった。
「いや、儲かる、世間をみたら分かるこっちゃ、一体誰れが損をしよったんや? 皆、儲けてるやないか、この村でかて、十姉妹飼えんのは慎作みたいな因果な息子を持った家だけや、慎作に何の遠慮があるのや! 飼え言うたら飼え!」祖父は唾を飛ばしてあくまで決定的であった。
「そやなあ、どっちにし
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