た。坐禅めいたあぐら[#「あぐら」に傍点]姿の祖父が、両手を膝に端然とつき、亀の様に首を延ばして父の手付を頼もし気に覗き込んでいた。薄い燭光と蚊遣りの煙りに包まれた二人の周囲に、心なしか、何か秘密の作業場と云った雰囲気が感ぜられた。門口に突立った慎作をみて、台所で縫物をしていた母も、土間の二人も、一瞬、息を呑んで体を固ばらせた。と、父は慌てて側に置いた鳥籠を糠桶の蔭へ押しやった。そして、不自然なほどかがみ込んでカンナ[#「カンナ」に傍点]に力を入れた。「シュッ、シュッ」と、カンナ[#「カンナ」に傍点]の音が何かの悪い前兆の様に四辺に際立って、むくれあがる白いカンナ[#「カンナ」に傍点]屑が傷ついた者の様に転がった。白い眉をあげて祖父は屹《きっ》と慎作を見たが、思い返したように舌打して向き直り、故意《わざ》と慎作を無視する様な高い皺枯れ声を出した。
「これで八つ位は、大丈夫出来るやろな?」
「……う……」父は曖昧に首肯いていよいよかがみ込んだ。胸一杯にふくれあがってくる強い感激めいたものを拒むように、慎作は晴れがましく「只今!」と言って上がった。母は、慎作の飜った態度にほっとして、すがり
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