、囁きが飛び交うた。
「あ、父子やぜ」
「ありゃ、S村の直造さんや」
「二人とも狂うてンのかい」
「何や、何や?」
慎作は、父をかかえ込んで叫けんだ。
「諸君、これは私の愛する父です。私は、父の狂ったことを今はじめて知りました。私の父は従順《おとな》しい、正直者でした。それが、それが……どうして、こんなあさましい気狂いになったか、諸君、諸君にも責任があるのだ。それは十姉妹の悪流行だ、この大旱りだ。貧乏だ、悪地主だ、いや、それは、それは、資本主義制度の……」
声は泣きかすれて行った。が、見よ! 慎作の胸底にうず高く積まれた悲惨な薪に、遂に火がついたのだ。今こそ、無産階級意識が、大|炬火《かがりび》の如く燦々と輝やき出したのであった。
底本:「日本プロレタリア文学全集・11 文芸戦線作家集 (二)」新日本出版社
1985(昭和60)年12月25日初版
1989(平成元)年3月25日第4刷
底本の親本:「文芸戦線」
1928(昭和3)年5月号
入力:林 幸雄
校正:青野弘美
2002年3月13日公開
2008年3月25日修正
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