つしよ》の歓喜と倫を絶したる静かに淋《さび》しく而かも孤独ならざる無類の歓喜は凡そ十五分時がほども打続きたりと思《お》ぼしきころ、ほのかに消えたり。(本書〔『病間録』〕一七九頁「宗教上の光耀」と題する一篇のうちに、感情的光耀につきて記したる一節は、この折の経験に基づきて物したるなり。予は従来とても多少これに類したる経験を有せざりしにはあらざりしが、此の夜のに於けるが如く純粋にして充実せるは無かりき。)予は未だありしこの夜の経験の深きこゝろを測りつくし辿《たど》り尽くすこと能《あた》はず。今なほ折々[#「々」は、底本では踊り字の「二の字点」]当夜の心状を朧ろに想起しては、天上生活の面影をしばし地上に偲《しの》ぶの感あるなり。
 今一つは昨年九月末の出来事に繋《つなが》れり。予は久しぶりにて、わが家より程遠からぬ湯屋に物せんとて、家人に扶《たす》けられて門を出でたり。折りしも霽《は》れ渡りたる秋空の下、町はづれなる林巒《りんらん》遠く夕陽を帯びたり。予はこの景色を打眺《うちなが》めて何となく心|躍《をど》りけるが、この刹那忽然《せつなこつぜん》として、吾れは天地の神と偕《とも》に、同時に、
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