想を描けとの意[#「過去の国民性もしくは理想を描けとの意」に傍点]となさば如何。此の一解は以て前の三解を補ふには足らざるか。されど吾人は疑ふ、何が故《ゆえ》に過去の国民性もしくは理想を今の作家[#「今の作家」に傍点]に要求する必要あるかと、過去の理想を描きたる作を見んと欲せば、馬琴に帰れ、春水に帰れ、種彦に帰れ、もしくは又た巣林子《さうりんし》、西鶴の作に帰れ。之れを以て今の作家に擬するは屋上屋を架するの愚を演ずるものにはあらざるか。今の作家をして彼《か》の中古派《ローマンチツク、スクール》の覆轍《ふくてつ》を蹈《ふ》ましめんと欲するものにあらざるか。よしや忠孝もしくは義侠を以て国民の特質なりとするも、吾人の見んと欲する所は過去の所謂《いはゆる》忠孝にあらずして今日の忠孝[#「今日の忠孝」に傍点]にあらざるか。過去の所謂家系問題にあらずして、今日の家系問題[#「今日の家系問題」に傍点]にはあらざるか。換言すれば、吾人は明治二十六|世紀《(ママ)》の風潮の為に若干か化醇《モヂフアイ》せられたる忠孝及び家系問題を見んことを欲するにあらざるか。夫《そ》れ忠孝といひ義侠といふ、其の形式的方面は
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