似たり。されど其の言や妥当なりと言ふべからず。
以上三個の主なる理由によりて所謂国民性を描けとの真意義を蔽ひ得べきに似たり。吾人は此の意を持して必しも件《くだん》の要求を排せざるべし。されど何が故に此くの如き模糊《もこ》[#「模」は、底本では「糢」]たる一語を提して此の要求を標せんとはするぞ。何ぞ寧《むし》ろ其の語を直接にして、作家の主観を拡大せよと言はざる。其の同情を国家大にせよと言はざる。実生活に接近せよと言はざる[#「作家の主観を拡大せよと言はざる。其の同情を国家大にせよと言はざる。実生活に接近せよと言はざる」に傍点]。(此の要求の果して如何ばかり今の作家に対して効果あるべきか否かは問はず)要求の真意や可し、されど吾人は国民性を描けとの一語に与《く》みする能はず、何となればそは殆《ほとん》ど無意義に類すれば也[#「無意義に類すれば也」に傍点]。
(明治三十一年五月)
底本:筑摩書房刊『現代日本文學大系96』
1973(昭和48)年7月10日初版第1刷発行
入力:j.utiyama
校正:丹羽倫子
1999年1月19日公開
1999年8月11日修正
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