すとせんも、他面悲哀厭世の特質[#「悲哀厭世の特質」に傍点]を看過するを得べきか。祇園精舎《ぎをんしやうじや》の鐘の音に人生の無常を観ぜし当年の鎌倉武士、足利《あしかゞ》時代の国民は如何《いか》さまにか之れを解すべき。『平家物語』もしくは『方丈記』等は以て日本国民の産物となすべからざるか。吾人は疑ひなきを得ざる也。然らば尚武任侠[#「尚武任侠」に傍点]は如何。吾人は此にも前と同様なる疑ひを提起し得ベし、則《すなは》ち尚武任侠《しやうぶにんけふ》はひとり日本国民の特質なりといふを得べきかと。かの欧州中古に於ける義侠勇武の武士気質は全く之れと性質を異にせりと言ふを得べきか。義侠といひ尚武といふが如きは日本国民固有の特性といはんよりも、寧《むし》ろ封建制度其のものに必随し来たる一種の現象と言ふの当たれるにはあらざるか、更に国家の運命を懸念《けねん》するを以て日本国民の特質なりと言はんか、国家の運命を懸念するもの特《ひと》り日本国民にのみ限れるの事なるか、之れを以て日本国民の特質となすは余りに漠たるの感なきを得るか、道義的情緒に富めりといふを以て之れに答へんか、これ将《ま》た特に標して日本国民の特質なりと言ふほどに具象的ならざるを如何せん。終りに忠孝[#「忠孝」に傍点]といひ、家系の継紹[#「家系の継紹」に傍点]といふ、此の二事は以て日本国民の特質を代表せしめ得べきが如し。中にも忠君の徳[#「忠君の徳」に傍点]の如きは万国に其の倫《たぐひ》を見ざる国民の美質なりと言ふを得べし。(孝徳の発達はむしろ著るしく支那に見ることを得べけれど)さはれ忠孝や、家系の継紹や、是等《これら》は果して日本国民の不易[#「不易」に傍点]の若《も》しくは先天的特質[#「先天的特質」に傍点]なりと言ふを得べきか、少なくとも英国民性を Positivistic といひ実際的[#「実際的」に傍点]といふほどの意味にて之黷??{国民の特質なりと言ひ得べきか。是等は寧ろ半《なかば》は歴史的、進化的結果なりと言ふを得べからざるか。かりに是等の疑ひを排斥する十分の根拠ありとするも、所謂[#「所謂」に傍点]忠孝、所謂[#「所謂」に傍点]任侠、所謂[#「所謂」に傍点]家系の継紹は、半は過去の理想[#「過去の理想」に傍点]もしくは特質にはあらざるか。然らば論者が国民性を描けといふ意を解して、
 過去の国民性もしくは理
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