を満足せしむる能はざるが故に国民と為すなきの文学なりと言はんか、謂《い》ふところ国民[#「国民」に傍点]は普通の新聞的読者の一団を指せるの語か、言ひ換ふれば、一種の実感もしくは卑俗なる好尚を以て文学に対する国民の意なるか[#「一種の実感もしくは卑俗なる好尚を以て文学に対する国民の意なるか」に傍点]、然らざれば国民としての意識を満足せしむる能はずの語得て解すべきにあらずや。思ふに詩歌に性情の満足をいふの意は唯だ作中に現れたる詩的正義《ポエチカルジヤスチス》に対する満足に関してのみ言ひ得らるべき事にはあらざるか、詩的正義だにあらば、必ずしも ideal hero を主人公とするの要なきにはあらざるか。吾人は国民性の美処をのみ描けといふ論拠に対して疑ひなきを得ざるなり。
更に惑ふ、謂ふところ国民性とは何ぞや[#「国民性とは何ぞや」に傍点]と。言ひ換ふれば、我が国民に普遍[#「普遍」に傍点]なる特質(而して此《か》かる特質は要求するまでもなく作家が日本人なる限り、其の描写の方面を異にせるに拘《かゝは》らず、之れに触れざる作家なかるべき所以《ゆゑん》は普遍[#「普遍」に傍点]といふ語にも著くまた上文既に論じたる所にも著し)とは果して如何なるものなるかと。論者或は之れに答ふるに左の特質を以てせん曰はく、
日本国民は快活楽天[#「快活楽天」に傍点]の国民なり、
日本国民は尚武任侠[#「尚武任侠」に傍点]の国民なり、
日本国民は最も国家の運命を懸念する[#「国家の運命を懸念する」に傍点]の国民なり、
日本国民は最も道義的情緒に富める[#「道義的情緒に富める」に傍点]国民なり、
日本国民は忠孝義勇[#「忠孝義勇」に傍点]を人道の大本となす国民なり、
日本国民は家系の継紹を重ずる[#「家系の継紹を重ずる」に傍点]国民なり、云々
と。好《よ》し、此に列挙せる特質は果して日本国民の普遍なる特質なりと言ふを得べきか。論者は快活楽天を以て国民の特質となす、されど此《こ》は特《ひと》り日本国民が先天的特質なりと言ふを得べきか、古希臘《いにしへギリシヤ》国民の如きも、また此の質を有し、且つ一層|明《あきらか》に此の特質を有せりしにはあらざるか。此には仮りに之れを問ふの要なしとして、更に疑ふべきは、日本国民は果して真に快活楽天なる国民なるかといふこと是れ也《なり》。一面この特性あるを許
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