マルー小の兄に違ひなかった。彼は此の男を捉《つかま》へて来たことを悔恨した。自分自身の行為を憤ふる気持で一杯になった。先刻、此の男を引張って来た時の誇らしげな自分が呪はしくなった。その時、部長は彼の方を向いて云った。
「おい、奥間巡査、その妹を参考人として訊問の必要があるから、君、その楼《うち》へ行って同行して来給へ。」
それを聞くと、奥間巡査は全身の血液が頭に上って行くのを感じた。彼は暫時の間、茫然として、部長の顔を凝視《みつ》めて居た。やがて、彼の眼には陥穽《かんせい》に陥《お》ちた野獣の恐怖と憤怒《ふんど》が燃えた。(完)
底本:「池宮城積宝作品集」ニライ社
1988(昭和63)年4月1日発行
入力:大野晋
校正:松永正敏
2002年1月3日公開
2005年11月21日修正
青空文庫作成ファイル:
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