のこととすると、他の事實との關係を考へる必要のないこと、即ち單獨性を指したものと取つて置く。さて感官に觸れるには或場所を占めて居なければならぬ譯であるから、空間に席を持たないと信ぜられてゐる心的現象は事實の仲間から除外せられることになる。しかしながら場所を占めてゐないからと云つて確でないとは限らない。何となれば事實を認識して事實と立てたのは心である。其心は一般哲學者が信ずる如く神祕的のものであるか、又一派の心理學者の云ふ如く喉頭筋の作用であるかは問ふところでない。兎も角認識作用を營むものであればそれでよろしい。然らば心はあらゆる事實に先つて第一に確かなる存在である。之を最も根本的な事實と取つて差支ない。在來心を事實の種類と見做さなかつたとすれば、それは見解の透徹しなかつたためであれば、勿論之を拒絶する理由とはならない。却て心が事實の仲間入をするのは、事實の側では一般に重要性を持つことになつたと取つて然るべきである。さうすると又心に依存して生起するあらゆる心的現象は、慥に心が認識承知出來ることであるから、これ又明に一々事實と取るを得べきものである。
前陳の考察は事實の範圍を擴張して物的
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