つて生活する徒食者は、獨立しては立行けぬもので、實に憐むべきものである。しかるにも係らずさうした不耕貪食[#「不耕貪食」に白丸傍点]の徒は常に農民の上に位し、安逸な樂みをなしてゐる。實に不公平な不都合なことで、全く面白くない世相である。かう安藤は觀察したものである。ところが世界孰れの國に在つてもこの面白くないことが行はれてゐるといふことに氣付いて見ると所謂教だの政だのいふものは一體何所を目標としてゐるのかと憤慨して見たくなるのである。此見地に立つて安藤は治國平天下の代表者聖人孔子を罵り、救世の代表者世尊釋迦をも呵り付けるのである。もし彼が此特色ある問題を提げて起つたとすれば彼は歐米の主義者の先驅者となつたであらう。
 然るに彼の透徹性は茲に止ることを許さず、彼をして百尺竿頭一歩を進ましめ、何故に治國救世を標榜する政や教が揃ひも揃つて、しかく無能であつて、世間の惡黨をも退治することも出來ず、又古今東西に亙つて行はるる不公平をも匡正することが出來ないのであるかと問はしめたのである。彼は自ら此窮極的なる問題を提出し、其解決を求めんがため博く深く考察を運らし、是を法世に囚れたる人に聞くを欲せず
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