、人皇時代を通拔け、神代を突破し、遂に原始時代に突貫したものである。其間彼が歴史に對する面白い觀察もあるが略することとする。偖て原始時代に遡つて見れば其所にはあらゆる事物の搖籃が見出され、而して其搖籃の中に育ちつつある事物の起原が夫れ自身の詐らざる告白を爲すことに由つて、彼はやつと彼の提出した大問題の解決方法を考付いたのであつた。夫れから後は一瀉千里、完全に此大問題を解決することが出來たと思つた。彼が搖籃の中に見出したと云ふものは腕力であつた。同時に智力もあつた。其腕力それから智力、それから金力、それから夫等の力によつて組立てられた階級、分業、政治、法律、宗教、學問、あるとあらゆる制度文物が悉く間違つてゐると思うた事柄の原因をなしてゐると云ふことが、彼にとつては疑ふことの出來ない事實となつた。彼が茲に氣付いた時に靜に法世を棄てようとの決心を定めた。最早彼は法世に生息し法世を有難く思うてゐる人達を罵倒したり相手にしたりする遑がない。寧ろ法世其物を棄てなければならないのである。然らば先其教を棄てよう、其政を棄てよう、其文字言語をも棄てよう、よろしい思想其物迄も棄ててしまへ。是が彼の喚びであ
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