ンのみで生きるのではないと横鎗を入れることも出來る。しかしさう云ふ人も論より證據、矢張パンを必要とするとあつては、生命を支ふる一番大切なるものは食物であることは異論のあるべき筈がないので、其他のものは二次的三次的に考へらるべきものであると云はなければならない。此事實は三歳の童子も知つてゐる。いや生れたばかりの赤坊も自然に知つてゐるほど、それほど人間にとつては大切な事である。もしこの大切なる事實を忘れる樣な不埒ものがあつたら、命を失うたからとて不平も云へない筈である。此大切なる事實に直面して安藤は同胞の反省を促し覺醒を求むること痛切なるものがある。
安藤曰く、かの農民を見よ。農民は自ら直に耕し[#「自ら直に耕し」に白丸傍点]て食ひ、以つて獨立の生活を營むもので、端的に此大切なる事實を實現しつつあるのではないか。さうした生活の模範を示すところの直耕[#「直耕」に白丸傍点]の農民は、道理の上から須く一番貴まれなければならない筈であるのに、常に下にしかれて貧乏に苦しんでゐる。之に反し自ら耕さず[#「耕さず」に白丸傍点]して他人の耕したものを贅澤にも貪る如くに食[#「貪る如くに食」に白丸傍点]
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