危險が伴ふと見て棄てることになると、取りも直さず正確なる知識を失ふことになる。正確なる知識を持つことを許されずして、何時實現出來るか分らない理想のみを説く所の精神科學にばかり頼ることになると、頭がどうかなつて、其所に迷ひが出で來り、思想の漢土化天竺化を見る如きことがないとも限らない。夫は甚だ迷惑なことだ。とつくりとかうした所を考へて見て、寧ろ各自此物理學を研究して見たらば如何であらう。どうしても危險でならないと思つたら致方がないことで、其時精神的科學に鞍替しても何等差支のないことと思はれる。しかし人まで勸める態度が惡いとあれば、それは止めることにして、唯自分等同志にのみ物理學を研究することを聽して貰ひたい。とかういふのである。
右の樣な具合にして折衝を試みたら、大抵妥協が成立するでなからうかと思はれる。いやそれよりか唯物理學の理論のみを發表し、假令如何なる便利の機械の考案が出來てゐても、その實現を見合はすことにしたら始めから問題を起す樣な氣遣がないことは明白である。此處である。思想の衝突でも起つた場合、又衝突を避けようとした場合、お互どうした態度をとつたら、人に迷惑をかけないで濟むか
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