上かういふ世の中になつて來ると、かの精神界の仕事が聊か見劣りがする。依て倫理道徳は日に衰頽に赴くかのごとくに見えて來る。茲に於て物質的文明は駄目と來る。かうなると一方から精神的文化靈的文明の喚びが擧がるのも不思議はない。事實かう云ふことがあるから不思議はないといふのである。而して物理學的即ち物質的思想を徹底せしむることに因て危險を伴ふ事實が明白であるから、其所が惡いのであると云ふなら、それをも認めることとする。偖て問題を茲まで運んで來ると私は義務として其解決を試みなければならない。そこで假りに百歩を精神論者に讓り、彼等の危險視する汽船、汽車、電車、自働車、飛行機を操縱することは一切止めることにする。而して物理學の理論だけを講釋することを聽して貰ふのを妥協の條件として提出する。而して其理由はかうである。物理學は正確なる知識である。自然の道理を如實に言語に移したばかりの純潔正眞の知識である。それでなかつたら、何であれだけ便利な機械を作つて人間の幸福を増進することが出來たであらう。幸福を願はない人ならいざしらず、苟も共存共榮人類の發展を望むことであるなら、どうか物理學に信頼して貰ひたい。夫を
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