たかと云へば、勿論その傾向はあつたが、今日の科學者と比べられる樣な精確なる知識を持つてゐた譯ではない。是を當時の彼に望むのは無理な注文と云はなければなるまい。しかし彼は幸ひにも自然を根本的に理解するに當つて必要缺くべからざる見方に打當てた。即ち彼は自然を處理する骨を悟つたのである。其骨は主觀的とはいへ全く根本的の原則であつたがため、直にそれを自然の癖ととつた、即ち自然の作用であり性質であると思うたのである。此見方を會得すると同時に、今まで彼を惱ましつつあつた思想の盤根錯節は直に消滅してしまつたのであるから、彼は確に自然の妙用を知つたと思うたのである。然らばそは何ものである。曰く互性活眞。
 互性活眞を平易に云へば一切の事物は相對して成立すると云ふ事である。此四字に由て現はさるる宇宙の眞理は、今迄誰も氣付かなかつたと安藤は主張する。彼は更に其眞理を生れながらにして知つて居たとも主張する。これは大きにさうでないと思ふ。先づ第一に生れながらに知つてゐたと云ふのは、人から聞いたり、本で見たりしたのではないと云ふ意味で、赤坊の時から分つてゐたと云ふ意味ではなからう。大方苦心慘憺の結果で相當永くか
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