運動の相對性を的確に把へ得て、其論法を透徹し、哲學者や宗教家などの夢にも思はない處に向つて飛躍を試みつつあるのである。
今物理學のことを一寸例にした序でに、直接互性活眞には關係は無いとは云ふものの、ずつと後に引合にすることがあり、又先以て思想を徹底させ其實現を爲さしむることに由て危險が伴つて來る場合があるのを説明するに都合がよいのであるから、餘談ではあるが横道に這入る。物理學と云へばこれ以上正確な知識は望まれないもので、精神科學も將來その前に屈服する時期が來るであらうし、救世の實も始めて此學問に因て擧げらるる事と思はせらるるのであるが、普通の頭には這入り難いので左程には採られてゐない樣だ。しかし其知識を正確ならしむるために幾多の學者を犧牲にした事などは、軍事界や宗教界などに比らべて數が少ない樣であるから云はずもがな、之を實際に應用するに及んでは驚くべき效果を奏して、汽船、汽車、電車、自働車を走らせ飛行機をも飛ばせて、實に人世の便利此上もない。同時に又人には怪我をさせるし轢殺しもする墜落もさせる、物騷な次第である。是は是れ文明の利器ではあるが、甚だ危險極まるものと云はざるを得ない。その上かういふ世の中になつて來ると、かの精神界の仕事が聊か見劣りがする。依て倫理道徳は日に衰頽に赴くかのごとくに見えて來る。茲に於て物質的文明は駄目と來る。かうなると一方から精神的文化靈的文明の喚びが擧がるのも不思議はない。事實かう云ふことがあるから不思議はないといふのである。而して物理學的即ち物質的思想を徹底せしむることに因て危險を伴ふ事實が明白であるから、其所が惡いのであると云ふなら、それをも認めることとする。偖て問題を茲まで運んで來ると私は義務として其解決を試みなければならない。そこで假りに百歩を精神論者に讓り、彼等の危險視する汽船、汽車、電車、自働車、飛行機を操縱することは一切止めることにする。而して物理學の理論だけを講釋することを聽して貰ふのを妥協の條件として提出する。而して其理由はかうである。物理學は正確なる知識である。自然の道理を如實に言語に移したばかりの純潔正眞の知識である。それでなかつたら、何であれだけ便利な機械を作つて人間の幸福を増進することが出來たであらう。幸福を願はない人ならいざしらず、苟も共存共榮人類の發展を望むことであるなら、どうか物理學に信頼して貰ひたい。夫を
前へ
次へ
全27ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
狩野 亨吉 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング