の諸峰か。雲は肩の辺に渦を巻いて、動こうともしない。右手に近く乗鞍の雄大な尾根が、かば色にのさばっていた。相変らず、ぶよのなくねがのどかにする。山崎は例のごとく昼寝をしている。坊城はスケッチで、この美わしい景色を汚そうと骨を折っている。園地と小池と板倉は、その間に、デセールをなるたけたくさん食って、水をしこたま飲もうと心がけていた。
霞沢岳の途中
腰のずれそうな傾斜のはい松の中に腰を下ろした。まっすぐな谷が、梓川が糸のように見える上高地の平原まで続く。すぐ右手に頭を圧して、半天をさえぎって、花崗岩の大岩塊が、白い屏風を押し立てたように立っている。下の平原を隔てて、向う側には、穂高から焼への尾根の一部が見えて、その上に笠ガ岳が胸まで出している。わが頭をすれすれに、岩燕がヒューとばかり鋭い翼の音をたてて、一羽は一羽の後を追いながら、大円を画いてかけて行く。その燕がたちまち小さく、小さくなって花崗岩の中腹ぐらいに行ったと思うと、そこに胡麻をまいたように群がった岩燕の群の中に消える。大きな白い岩の胸のあたりに、点々として速く動く燕の群からは、チクチクという鋭い叫びが花崗岩に反
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