響して、はい松の静けさの中にひびいてくる。岩そのものから出る声のように、燕が岩から生れるのではないかと思えるように、二つのものが親しそうに見えた。
小屋
宿屋の前では、広い河原を流れる水が、少し下流に行くと十間幅の激流となる。凄ましい音をたてて水はうねったり跳ねたり、できるだけの力と速さで、われさきにと、流れて行こうとする。底にある石という石はみんなころがす勢いではねて行く。河辺に立つと、氷のような涼しさが、ゴーゴーという叫び声の上で、一面に漂って、岸の木々の葉には、常に風が吹いている。ここに、丸太をつないだ橋がかかって、渡る一歩ごとにふわりふわりとゆれる。下では白い泡と緑の水とが、噛みあってわめいて行く。中央に立って下流を見ると、木のない焼岳が、静かに煙を上げている。この橋を渡ると、青い草原となって、白樺が五、六本と落葉松が生えて、ところどころに、蕗の花が夢の国に行ったように、黄色く浮んでいる。緑にこされたためか、流れの音は、ここに入ると、急に静かに響いてくるようになる。この原は十間でまた小川に達する。透きとおるような水が音もなく流れて、このちょっと下で激流に流れこ
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