ると、ゆるい傾斜の雪の上に、ところどころに針葉樹が瞑想にしずんでいるように立っていた。この広い傾斜を下へ下った時に自分達は、ほんとうに驚かされた。山の上の広い雪の原に、五葉の松や樅がぽつりぽつりと取り残されたようにたたずんで、この白い傾斜のはてに、山が、遠くの山々が夕日にあかあかと燃えていた。雪の山が燃えるんだ。いや輝くんだ。そして空は、赤からオレンジとだんだん変って、やがては緑色までうつって行く。ああ自分は、いまこそ生きている。美の感じと、感嘆の叫びが、行きづまった時、自分は、蒸発して行くんじゃないかとすら思った。呼吸をすると、あの燃える山も、五色の空も、呼吸する。空間を越え、時を越え、狭い五感の世を越えて、今は、宇宙の源さしてとけこんで行く。スキーの足も自ら遅く、ヴンテンさんの影が五色の空の中へ遠くなるのもかまわず、うっとりと雪の平原を滑って行く。はてもなく歩きたい。何かいいたい。「まるでスイスだ」と行ったこともない自分は叫んだ。右手の小高い岳には樅の森が、この美に立ちすくんだように黒く見える。「いいな、たまらないな」という松方と坊城の独言がかなり後ろで聞えた。山がこんなに赤く燃え
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