寂しい。
 十二月三十一日。戸田は風邪らしいので休む。後の三人は外人と山に行くことになった。オーストリアのウインクレル氏は二十九の元気な青年だ。「今日おともを・さして下さい」と英語式日本語がつい出た。すると「ええ、だけどちょいと近くですよ。余り面白くもありません」と流暢な日本語が返ってきた。後の面々の年は外人だから分らない。何しろ三十以上四十ぐらいの人もいるようだ。孝ちゃんも一緒で日英独の山登りは面白い対照だ。この前登った崖も今日は楽に登って風雪に弱ったところを列をつくって登って行く。ウインクレル氏が先頭で孝ちゃんが殿《しんが》りに。まん中の日本人三人がむやみに後滑りしていたが余りみっともよくなかった。電光形に正しく先頭の後を登って行くといよいよ初めての下りがきた。左手に山をひかえたところだから下りにくい。先頭が手際よく下りてぴたりと止ると次が下る。坊城が滑り出したと思うと、右にそれて下に行って煙をあげた。何のあいずやら。小池は滑るたびに左手の山にのしあげる。決してスキーが下を向かないで山の方を向く。つまり傾斜面と直角な線が平行につく。はしご段を一段一段横に滑って、また一段下に足をのば
前へ 次へ
全28ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
板倉 勝宣 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング