ったのだった。それから黙っているのだった。自分たちは外にでて岩に腰をかけたのだった。そしてそのときまでも黙っていたのだった。
そのときまで自分たちお互いは心のなかで、光の焦点のように各々《おのおの》の心の中に現われている、あるひとつの想いについて寂しい路を歩いていたのだった。ふと涸沢岳のあの脆《もろ》い岩壁から岩がひとつ墜《お》ちる音がした。カチーン……カチーン……と岩壁に二、三度打ちあたる音が、夜の沈黙のなかにひびいた。そしてそれがすんでしまうとまたもとのような言いあらわしようもないほどの静かさだった。
そのときだった、ひとりが考えにつかれたかのように、自分たちの前にひとつの問いを投げだした。――
「おい、一体山で死ぬっていうことを君たちはどうおもっている。」
自分たちはみんな同じような気持で同じことを考えていて、誰れかが話しの緒口《いとぐち》をきるのを待遠しく思っていたかのように見えた。そこへ、この言葉が落ちてきたんだ。勿論それは反響《こだま》した。全く先刻《さっき》から自分たちお互いの心はお互いにこの高い山の上の、しかも暗いなかで、自分たちのなかからその大切な仲間をいつ、誰
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