すこしずつ薄樺《うすかば》の隈《くま》を加えて、遠山も、毒でも飲んだかだんだんと紫になり、原の果てには夕暮の蒸発気がしきりに逃水をこしらえている。ころは秋。そこここわがままに生えていた木もすでに緑の上衣を剥《は》がれて、寒いか、風に慄《ふる》えていると、旅帰りの椋鳥《むくどり》は慰め顔にも澄ましきッて囀《さえず》ッている。ところへ大層急ぎ足で西の方から歩行《あるい》て来るのはわずか二人の武者で、いずれも旅行の体《てい》だ。
一人は五十前後だろう、鬼髯《おにひげ》が徒党を組んで左右へ立ち別かれ、眼の玉が金壺《かなつぼ》の内ぐるわに楯籠《たてこも》り、眉《まゆ》が八文字に陣を取り、唇《くちびる》が大土堤《おおどて》を厚く築いた体、それに身長《みのたけ》が櫓《やぐら》の真似して、筋骨《すじぼね》が暴馬《あれうま》から利足《りそく》を取ッているあんばい、どうしても時世に恰好《かッこう》の人物、自然|淘汰《とうた》の網の目をば第一に脱けて生き残る逸物《いちもつ》と見えた。その打扮《いでたち》はどんなだか。身に着いたのは浅紺に濃茶の入ッた具足で威《おどし》もよほど古びて見えるが、ところどころに残
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