ッている血の痕《あと》が持主の軍馴《いくさな》れたのを証拠立てている。兜はなくて乱髪が藁《わら》で括《くく》られ、大刀疵《たちきず》がいくらもある臘色《ろいろ》の業物《わざもの》が腰へ反《そ》り返ッている。手甲《てこう》は見馴れぬ手甲だが、実は濃菊《じょうぎく》が剥がれているのだ。この体で考えればどうしてもこの男は軍事に馴れた人に違いない。
 今一人は十八九の若武者と見えたけれど、鋼鉄《はがね》の厚兜が大概顔を匿《かく》しているので十分にはわからない。しかし色の浅黒いのと口に力身《りきみ》のあるところでざッと推《すい》して見ればこれもきッとした面体の者と思われる。身長《みのたけ》はひどく大きくもないのに、具足が非常な太胴ゆえ、何となく身の横幅が釣合《つりあ》いわるく太く見える。具足の威《おどし》は濃藍《こいあい》で、魚目《うなめ》はいかにも堅そうだし、そして胴の上縁《うわべり》は離《はな》れ山路《やまみち》であッさり囲まれ、その中には根笹《ねざさ》のくずしが打たれてある。腰の物は大小ともになかなか見事な製作《つくり》で、鍔《つば》には、誰の作か、活き活きとした蜂《はち》が二|疋《ひき》
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