捨て、さて陣鉦《じんがね》や太鼓に急《せ》き立てられて修羅《しゅら》の街《ちまた》へ出かければ、山奥の青苔《あおごけ》が褥《しとね》となッたり、河岸《かし》の小砂利が襖《ふすま》となッたり、その内に……敵が……そら、太鼓が……右左に大将の下知が……そこで命がなくなッて、跡は野原でこのありさまだ。死ぬ時にはさぞ※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》いたろう,さぞ死ぬまいと歯をくいしばッたろう。血は流れて草の色を変えている。魂もまた身体から居どころを変えている。切り裂かれた疵口《きずぐち》からは怨めしそうに臓腑《ぞうふ》が這《は》い出して、その上には敵の余類か、金《こがね》づくり、薄金《うすがね》の鎧《よろい》をつけた蝿《はえ》将軍が陣取ッている。はや乾いた眼の玉の池の中には蛆《うじ》大将が勢揃《せいぞろ》え。勢いよく吹くのは野分《のわき》の横風……変則の匂《にお》い嚢《ぶくろ》……血腥《ちなまぐさ》い。
はや下※[#「日+甫」、第3水準1−85−29]《ななつさがり》だろう、日は函根《はこね》の山の端《は》に近寄ッて儀式とおり茜色《あかねいろ》の光線を吐き始めると末野は
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