みで、いろいろな木がきまりなく、勝手に茂ッているが、その一室はここの家族が常にいる室《ま》だろう、今もそこには二人の婦人が……
 けれどまず第一に人の眼に注《と》まるのは夜目にも鮮明《あざやか》に若やいで見える一人で、言わずと知れた妙齢《としごろ》の処女《おとめ》。燈火《ともしび》は下等の蜜蝋《みつろう》で作られた一里一寸の松明《たいまつ》の小さいのだからあたりどころか、燈火を中心として半径が二尺ほどへだたッたところには一切闇が行きわたッているが、しかし容貌《かおだち》は水際だッているだけに十分若い人と見える。年ごろはたしかに知れないが眼鼻や口の権衡《つりあい》がまだよくしまッていないところで考えればひどく長《た》けてもいないだろう。そのくせに坐《すわ》り丈《ぜい》はなかなかあッて、そして(少女《おとめ》の手弱《たよわ》に似ず)腕首が大層太く、その上に人を見る眼光《めざし》が……眼は脹目縁《はれまぶち》を持ッていながら……、難を言えば、凄い……でもない……やさしくない。ただ肉が肥えて腮《あご》にやわらかい段を立たせ、眉が美事《みごと》で自然に顔を引き立たせたのでやや見どころがあるように
前へ 次へ
全32ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
山田 美妙 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング