すご》いほどに淋しい。衣服《きもの》を剥がれたので痩肱《やせひじ》に瘤《こぶ》を立てている柿《かき》の梢《こずえ》には冷笑《あざわら》い顔の月が掛かり、青白く冴《さ》えわたッた地面には小枝《さえだ》の影が破隙《われめ》を作る。はるかに狼《おおかみ》が凄味の遠吠《とおぼ》えを打ち込むと谷間の山彦がすかさずそれを送り返し,望むかぎりは狭霧《さぎり》が朦朧《もうろう》と立ち込めてほんの特許に木下闇《こしたやみ》から照射《ともし》の影を惜しそうに泄《も》らし、そして山気は山颪《やまおろし》の合方となッて意地わるく人の肌《はだ》を噛んでいる。さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴《うろ》には梟《ふくろ》があの怖《こわ》らしい両眼で月を睨《にら》みながら宿鳥《ねとり》を引き裂いて生血《なまち》をぽたぽた……
崖下《がけした》にある一構えの第宅《やしき》は郷士の住処《すみか》と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾《かざり》少く、夕顔の干物《ひもの》を衣物《きもの》とした小柴垣《こしばがき》がその周囲《まわり》を取り巻いている。西向きの一室《ひとま》、その前は植込
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