《めざ》ましい物でおじゃッたぞ」
「一の大将(義宗)もおじゃッたろう」
「おじゃッた。この方《かた》もおなじような打扮ではおじゃッたが、具足の威《おどし》がちと濃かッたゆえ、二の大将ほど目立ちなさらなかッた」
 折から草木を烈しく揺《ゆ》ッて野分の風が吹いて来た。野原の急な風……それはなかなか想像のほかで、見る間に草の茎や木の小枝が砂と一途《いっしょ》にさながら鳥の飛ぶように幾万となく飛び立ッた。そこで話もたちまち途切《とぎ》れた。途切れたか、途切れなかッたか、風の音に呑《の》まれて、わからないが、まずは確かに途切れたらしい。この間の応答のありさまについてまたつらつら考えれば年を取ッた方はなかなか経験に誇る体があッて、若いのはすこし謹み深いように見えた。そうでしょう、読者諸君。
 その内に日は名残《なご》りなくほとんど暮れかかッて来て雲の色も薄暗く、野末もだんだんと霞《かす》んでしまうころ、変な雲が富士の裾《すそ》へ腰を掛けて来た。原の広さ、天《そら》の大きさ、風の強さ、草の高さ、いずれも恐ろしいほどに苛《いか》めしくて、人家はどこかすこしも見えず、時々ははるか対方《むこう》の方を馳《
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