。和主《おのし》などはまだ知りなさるまいが、それあすこのかたそぎ、のうあれが名に聞ゆる明神じゃ。その、また、北東には浜成たちの観世音があるが、ここからは草で見えぬわ」
「浮評《うわさ》に聞える御社《みやしろ》はあのことでおじゃるか。見れば太《いと》う小さなものじゃ」
「あの傍《そば》じゃ、おれが、誰やらん逞《たく》ましき、敵の大将の手に衝《つ》き入ッて騎馬を三人打ち取ッたのは。その大将め、はるか対方《むこう》に栗毛《くりげ》の逸物に騎《の》ッてひかえてあったが、おれの働きを心にくく思いつろう、『あの武士《さむらい》、打ち取れ』と金切声立てておッた」
「はははは、さぞ御感《ぎょかん》に入りなされたろう、軍が終ッて。身に疵をば負いなされたか」
「四カ所負いたがいずれも薄手であッた。とてもあのような乱軍の中では無疵であろう者はおじゃらぬ。もちろん原で戦うのじゃから、敵も味方もその時は大抵騎馬であッた。が味方の手綱には大殿(義貞《よしさだ》)が仰せられたまま金鏈《かなぐさり》が縫い込まれてあッたので手綱を敵に切り離される掛念《けねん》はなかッた。その時の二の大将(義興)の打扮《いでたち》は目覚
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