也、直ちに自家の胸臆《きようおく》を語る、故に其言自ら快聴すべき也。

     福沢諭吉君

     彼の天職《ミッション》

 鳬《けり》短く鶴長し、柳は緑、花は紅、人豈吾と同じうすべけんや。此星の栄は彼の星の栄に異なり。福沢君の天職は日本の人心に実際的応用的の処世術を教ふるに在り。怜悧《れいり》なる商人を作り、敏捷《びんせふ》なる官吏を作り、寛厚にして利に聡《さと》き地主を造るに在り。彼は常に地上を歩めり、彼れは常に尋常人の行く所を行けり。彼は常に平直なる日本人民の模範を作らんとなしつゝあり。
 封建破れて、昨夢未だ覚めず。新しき世界に古き精神を逗《とゞ》めたる明治の初年に方《あた》りては、彼の喝破せし此主義が如何に開化党に歓迎せられて守旧党に驚愕せられたるよ。彼は一方には神の如く一方には悪魔の如く眺められたる者は之に因るのみ。然れども駸々《しん/\》たる時勢の潮流は日々に彼れの党派を加へ来りて、天下の幾分は殆んど福沢的に化するに至れり。彼れは其天職を畢《を》へしなり。

     彼れは党派の首領のみ、国民の嚮導者には非らず

 然れども彼れは一党派の首領のみ、国民の嚮導者《
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