走したる結果が大なる休息を求むるに至りたる故に非ずや。
然《しか》れども第十九世紀の大勢は後へを圧せり。疲れたりと雖《いへど》も中止すべからざるなり。填然《てんぜん》として之に鼓《つゞみう》ち兵刃既に交はるに及んでは勢勝敗を決せざるべからず。其一兵一卒の疲れたるが為めに全軍の掛引を変ずべからず。福沢諭吉氏を除きては先輩諸子の既に殆《ほと》んど倦色を著はせし当時に於て田口|卯吉《うきち》氏は経済に於て自由貿易論を主張し、馬場|辰猪《たつゐ》氏は政治上に於て自由民権を説き、中江|篤介《とくすけ》氏は社会的に平民主義を論じ、星、大井の諸氏は法律論を唱へ、此回顧的退歩的の潮流に抗し民心を激励|鞭撻《べんたつ》して此切所に踏み止《とゞま》り、更に進歩的の方角に之を指導せんとせり。是|蓋《けだ》し明治思想史の中世紀なりとす。
思想は来れり。之を表はすべき文学は如何《いかん》。蓋し心に思ふより口に言はるゝなりとは思想界に於て正当に来るべき順序にして思想は必ず脩辞《しうじ》の前に来る者なり。思想ある者は必ず之を正当に言顕はすべき言語を求めずんばあらず。上来|陳《の》べ来りしが如き新日本に生じ来れる
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