に至るまで或は大俗人の如く、或は自利一辺の小人の如く、或は大山師の如く、種々様々の論評は彼に向けられしかども、槲樹は痩地にも根を深くし、雨にも風にも恐れずして漸く天を突くの勢を為せり。一是一非の間に彼れは発達して明治の大家となれり、中村敬宇氏が元老院に死し、西周、神田孝平の諸先生が音も香もなくなりし時代に於て、言換れば明治の文運が新時代を生じたる今日に於て彼れは猶文界の巨人として残れり。時事新報は今日も猶彼れの議論を掲げて天下に紹介せり。彼れの論ずる所は雑駁《ざつぱく》にせよ、堅硬《スタビリチイ》を欠くにせよ、其混々たる脳の泉は今日に至るまで猶流れて涸《か》るゝことをなし。是豈驚異すべきに非ずや。
吾人の彼れに敬服する所は彼れが何処《どこ》までも「平民」として世に立てること是也。彼れは真個にミストル・フクザハを以て満足する者也。彼れは自ら其職分を知れり、自ら其技能を知れり。彼れは衣貌を以て、官爵を以て人に誇る者に在らず、自己の品位は即ち自己に在ることを知れり。彼れは斯くの如くにして世を渡れり、斯くの如くにして自ら律し、併せて世を教へたり。明治の時代に平民的模範を与へたる者、己の生涯を
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