れが今の「史海」の作者田口君の筆に因つて書かれしものなることを思へば田口君の才の寧ろ早熟にして、爾来《じらい》大なる変化なく古の田口は猶今の田口の如くなるに驚かざるを得ず。人の才は猶鉄の如し、鍛錬一たび成れば終《つひ》に変ずべからざる乎。抑《そも/\》亦修養の工夫《くふう》一簀《いつき》に欠かれて半途にして進歩を中挫せしか。或は「十で神童、十五で才子、二十になれば並の人」てふ進むも早く退くも早き日本人の特性は田口君も例外たる能はざる乎。
吾人は嘗て思へり、日本開化小史の最も優れたる所は其思想の発達と物質的の進歩とを観察せし点に在り、日本開化小史巻の四に於て日本文学の変遷を序述し、上宮太子の憲法十七条より説起し平安朝の四六文を評論し、進んで和文世に出でゝ言語と文章の漸《やうや》く親密に近《ちかづ》きし事情を叙する所、鋭敏なる観察力は火の如く耀《かゞや》けり。其王朝文学より鎌倉文学に至るまでの結論に曰く、
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王政柔弱に帰し学士を保護する能はざるに至りて我国の文学漸く独立の萌《きざし》を得、其|将《ま》さに傾覆せんとするに至つて始めて見るべきの書あり。
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