著はし優勝劣敗是天理といへる前提より、自由民権主張すべからず、政府と役人と貴族とに従順なるべしと云へる奇妙なる結論を為し得意然たりし時に彼は寸鉄人を殺す的の冷評を試みたりき。福沢諭吉氏が通貨論を著はして紙幣も貨幣も差違なきが如く、詭弁《きべん》を逞《たくまし》くせし時に彼れは之を難詰して許さゞりき、彼は世の称讃する大家先生の前に瞠若たるものに非らず、彼れは自らの力を信ぜしかば、容易に他人に雷同せざりし也。
(六)精細 彼は精力過絶なりと曰ふべからず。彼れは曲亭馬琴の半ば程も精力を有せざるべし。然れども普《あまね》く辛苦して材料を蒐聚《しうしゆう》するに至りては吾人は之に敬服せざるを得ず。「ペインステーキング」が若し文家の一特質ならば、彼はたしかに此特質を有する也。彼の統計表を作り、年表を作ることの如何《いか》に精細なるよ。彼れ嘗《かつ》て新井白石を称讃して其概括力に加ふるに精細緻密の能あるを称讃したりき。彼は精細の点に於て実に白石氏に似たり。
(七)若し彼の短所を言へば 其自信に強きが為めに往々独断に流るゝことあり。たとへば高橋五郎氏に胡誕《こたん》妄説なりと論斥せられし「興雲興雨
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