」の術の如き、彼れは其知らざる物理をも軽《かろ/″\》しく論じ去れり。其一たび基督教に入つて更に之より出でしが如き、而して其霊気学を唱道せしが如き、其宗教論の如き(吾人嘗て史海の批評に於て之を指出したり)頗《すこぶ》る大切なる結論を容易に為せり。
 独断なり故に狭隘《けふあい》なり。彼は数個の原則を捉《つか》み此を以て人事の総てを論断せんとせり。彼は何物も此原則の外に逸する能はずとせり。彼の史論が往々にして演繹的《えんえきてき》にして帰納的《きなふてき》ならざるものあるは(たとへば日本開化小史、上古史の如き)之が為めなり。

     田口卯吉君と其著述(三)

 此脳と此腕とを持てる彼れは自由貿易論者として顕《あら》はれたり。純粋なる寧《むし》ろ極端なる「マンチェスター」派の経済論者として顕はれたり。自由貿易と田口卯吉氏は恰《あたか》も賈生《かせい》と治安策、ダルウヰンとダルウヰニズム(化醇論)、スペンサーと不可思議論の如く、彼れを説けば必ず是れを聯想する名となれり。彼は極端なる個人主義、放任主義、或る意味に於ての世界主義を遠慮会釈なく説き立てたり。世は彼れの為めに驚かされたり、或る
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