ス[#「ミダス」は底本では「シダス」]は其杖に触るゝ総《すべ》ての物を金にしたりき。田口君は其眼に触るゝ物を以て、直《たゞち》に自家薬籠の中の材となす。
(四)真面目 彼は詐《いつは》らんには余り聡明なり、胡麻化《ごまか》さんには余り多感なり。自ら見る明故に詐る能はざる也。良心の刺撃太だ切、故に胡麻化す能はざるなり。彼は屡々自ら胡麻化したるが如く言へり。然れども其自ら胡麻化したりと公言する所以《ゆゑん》は即ち其正直なる所以なり。彼の文中には屡々「妻女にのろき」、「眼を皿にして」など言へる洒落たる文字あれども、而《しか》も是れ彼が正直にして多感的なるを掩《おほ》はんとする狡獪《かうくわい》手段なるのみ。
試みに彼に向つて一|駁撃《ばくげき》を試みよ。彼は必ず反駁するか冷評するか、何かせざれば止まざるなり。彼れは自家の位地を占むることに於て毫末も仮借《かしやく》せざるなり、彼れは議論に負けたとか勝つたとか言ふことを頗《すこぶ》る気にするなり。言ふこと勿《なか》れ、是れ彼の短所なりと。吾人を以て之を見る是れ彼れの正直なる所なり。彼れは自ら野暮《やぼ》と呼ばるゝを嫌ふべし。然れども彼の斯の
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