に之を説くも竪《たて》に之を論ずるも、如何なる攻撃に遇ふも、如何なる賞讃に遇ふも彼は動かざるを得るなり。白旗不[#レ]動兵営静なりとは彼が論文を形容すべき好辞なり。

     田口卯吉君と其著述(二)

(二)数学的の脳髄  数学は諸学科の基本なれども久しく我学者間に軽蔑せられたりき。関新助、渋川春海、中根玄圭の如き諸大家――我国のニュートンとも曰《い》ふべき大科学家――も新井白石、頼山陽等の人口に籍々《せき/\》たるに反対して、殆んど知られずに過ぎたりき。然れども地底の岩を音なしに流るゝ水こそ地面を膏腴《かうゆ》[#「腴」は底本では※[#「月+叟」、第4水準2−85−45]]にする者なり、彼れ数学者が人知らず辛棒《しんぼう》せし結果は我人民の推理力を養うて第十九世紀科学|跋扈《ばつこ》の潮流に合することを能《よ》くせしめたりき。果然経済学の唱道者は数学者の子孫より出でたり、田口君の推理力は其母方の血統なりとか聞く佐藤一斎に出でしにはあらずして其父方の血統に出でしなり。田口某君と称する彼の先考は実に数学者なりしなり。彼れは幕府天文方の吏として世に知られざる生涯を送りしかども、彼れが養
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