雖も怪しむ勿《なか》れ、彼は多く学問し多く詮索するの機会を有せざりしなり。
人若し少なき学問を以て多く考ふることを得ば其少なき学問は寧《むし》ろ彼の誇るべき者なり。
天下自ら運命を作れる人は皆不完全なる武器を以て大なる事を遂《と》げたる者なり。
乞ふ吾人をして彼の著書を細評する前に、先づ其大躰に就て一二言ふ所あらしめよ。
(一)玲瓏《れいろう》なる理解力 吾人は彼に於て始めて堅硬なる思想を見るを得たり。彼は其言ふ所を明かに知れるなり、彼の脳髄は整へり。世の文学者なる者、自らは空言に非ずと信じて書くことにても、思想錯雑して前後衝突し論理的に之を煎《せん》じ詰《つめ》れば結局空論に化して自らも之を驚く者あり。
其論文の構造は如何にも華麗にして恰《あたか》も蜃気楼《しんきろう》の如くなれども堅硬なる思想の上に立たざるが故に、一旦|破綻《はたん》を生ずれば破落々々となり了《をは》る者あり。甚しきに至つては、徒《いたづ》らに知らぬ事を喋々《てふ/\》し一知半解識者をして嘔吐《おうと》を催さしむる者あり。然れども田口君の論文に至ては毫末も斯の如きの病なし。彼は事理を見るに明かなり。故に横
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