れるものは泥の如くに解けたり。維新の始めに方《あた》りてや、所謂智識を世界に求むるの精神は沛乎《はいこ》として抑ゆべからず。天下の人心は飢渇の如く新しき思想新しき智識を追求めたり。其錦旗を飜《ひるがへ》して東海道に下向し、山の如き関東の勢を物の数とせざりしが如き議政官に上局下局を設けて公議輿論を政治の標準とし、世界第一の民政国たる米国に擬せんとせしが如き政治的冒険の花々しく、恐ろしく、快絶奇絶なりしが如く、当時の思想界の冒険も亦《また》孟賁《まうほん》をして後《しり》へに瞠若《だうじやく》たらしむる程の勢ありき。若《も》し明治元年より今日に至るまで日本の思想史を分ちて上中下の三となさば其上代は即ち極めて大胆なる、極めて放恣《はうし》なる、而して極めて活溌なる現象を有する時代にして、加藤弘之氏が「真政大意」を作りて人民参政の権利を以て自然の約束に出《い》でたりと論じ、福沢諭吉氏が西洋事情世界|国尽《くにづく》しの如き平民的文学を創《はじ》めて天は人の上に人を作らずと喝破《かつぱ》せしが如き、将又《はたまた》明六社なる者が其|領袖《りやうしう》西|周《あまね》、津田|真道《まみち》、森有礼
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