がい》町より下渋谷の田舎道は余と透谷とが其頃|数《しばし》ば散歩したる処にして当時の幻影《おもかげ》は猶余の脳中に往来す。蓋《けだ》し透谷の感情は頗る激烈にして、彼れは之れが為に終《つひ》に不幸なる運命に陥りし程の漢子《をとこ》なりしと雖も、平時は寧《むし》ろ温和なる方なりき。而して其人と事を論ずるに方《あた》つても彼れには決して気を以て人を圧するが如きこと無く、静かにして而も少《ちひ》さき声にて微笑しながら語るなりき。余は之に反せり。
直情径行は今も昔も医《いや》し難き余の病なりしかば、数ば大声を発し、論戦若し危きに及べば所謂横紙破りの我慢をも言出だしき。然れども透谷は敢て同一の調子にてそれに抵抗したることなかりき。彼れは唯ニヤリ/\と無邪気に笑ひつゝありしのみなりき。余は今猶記す。或る日例の如く二人にて散歩しつゝ討論しつゝありし時、余が余りに熱心になりて覚へず杖を振廻し/\したりしかば、透谷はそれを危ぶながりてクス/\笑ひながら路傍《ろばう》へ避け去りしことありき。此一事を以てするも透谷の温和なる性質は読者の心に明かならん。|加[#レ]之《しかのみならず》透谷は余が彼れに遊歩や外
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