と多し。吾人も亦二者の関係を解せざる者に非ず。国家の生命と元気とは堅固なる信仰、高尚なる道徳に頼りてのみ栄ゆるものなることを信ずる者なり。吾人は又|屡々《しば/\》愛国及び基督教てふ声を聞き政府及び教会てふ声を聞き、社会問題及び教会てふ声を聞く。若《も》し明治十八九年を以て学術及び基督教の関係が説かれたる時代なりとせば近き二三年は国家、社会及び基督教の関係が重《お》もに説かるゝの時代なりと曰ふべし。夏来れば蝉は必らず鳴く者なり。時勢の推移、此に至りしこと強《あなが》ちに尤《とが》むべからずと雖も、吾人にして若し唯基督教の国家社会を利する所以《ゆゑん》をのみ論じて、而して之を実地に応用するは必らず先づ一個人より始めざるべからざることを忘却せんには、是れ天上の星を仰ぎて足を溝《みぞ》に失したる古《いにしへ》の哲学者に類せざらんや。
 吾人は屡々諸教会の教師より其の講題を蒐《あつ》めて日本の講壇は重もに何を説くかを観察せんと欲したりき。吾人未だ之を為すに暇あらざりしと雖も、其事大抵察すべきのみ。若し我が講壇をして単に教師が其理想、其議論を語るの所たるに止《とゞ》まらしめば、教会は空論の教会と
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