歌はれざるべからず。何となれば唯堯舜のみ、此時代を極楽になすを得べければなり。何の為めに祖国の歌とマルセールの歌とは日耳曼《ゼルマン》と仏蘭西に歓迎せられしか、何の為めにウイッチャル、ロングフェロー等は合衆国に歓迎せられしか、何の為めに頼山陽は幕府の季世に歓迎せられしか、彼等は一世の最大希望を見て之が為めに歌ひたればなり。今日の日本が歌ふべき最大の題目は「占守島の郡司」なる乎。「西比利亜《シベリヤ》単騎旅行の福島」なる乎。「豊公の遠征」なる乎、「相模太郎の元寇」なる乎。「復古の感情」なる乎、「敵外の気」なる乎。抑《そもそ》も亦「西行」、「頓阿」、「芭蕉」なる乎。「枯木、寒山、寂々焉たる禅味」なる乎、「塙団右衛門」「奴小万」なる乎。支那は眠れり而れども今や覚めたり、日本は覚めて既に三十年。詩人よ卿曹《けいさう》は日本の前途に何の希望をも見出さゞる乎。日本が有する最大必要は卿曹の眼に映ぜざる乎。卿曹は日本の予言者に非ずや、而して卿曹は大に歌ふべく大に叫ぶべき何者をも日本に於て見出さずと曰ふや。
払暁、而して鐘声は鳴ざる乎。
(二) 一は人心の最大必要を歌ひ、一は否なればなり。
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