国の進動する所以《ゆゑん》の者、此に存す、国民若し仰ぎて中心とする英雄|微《なか》つせば、其文明は到底唯物的の魔界に陥らざるを得ず。
故に今日に及んで、我文明の進路を一転すべきの策、唯国民をして其理想人たるに適ふべき最大純高の英雄を仰がしめて以て国民の品格を高くするに在る耳《のみ》、其教訓、其訓誡を論ずるの外、其如何に世を経過せしかの摸範を示して以て向ふ所を知らしむるに在る耳、唯其言語が訓戒とするに足る耳ならず、併せて其行為を以て訓戒とするに足るべき者を求めて、之を仰視せしむるに在る耳、孟軻《マウカ》氏曰く、伯夷《ハクイ》の風を聞く者は、頑夫も廉《れん》に、懦夫《だふ》も志を立《たつ》る有り、又曰く柳下恵《リウカケイ》の風を聞く者は、鄙夫《ひふ》も寛に、薄夫も敦《あつ》しと、吾人は其生涯の行為、磊々落々《らい/\らく/\》、天の如く、神の如く、「シミ」なく、疵《きず》なく、万世の師範たるに足るものを世界の中に求めて之を頂かざるべからず。
蓋し大《おほい》なる国民は大なる英雄を奉じ、小なる国民は小なる英雄を奉ず、此理必しもカライル氏を待ちて後に知る程の秘密に非ず、国民の理想とするとこ
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